【ミステリ】赤い糸の呻き

本→西澤保彦
08 /26 2017
赤い糸の呻き
西澤保彦
創元推理文庫
赤い糸の呻き (創元推理文庫)
西澤 保彦
東京創元社
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「そして結局ぼくらは、心霊現象でもなんでもない事件に、最後まで振り回されたってわけさ。ねえきみ、今回のことを教訓にして、やっぱり営業時刻は、午後六時までにしようや。おやじの説得は、きみに任せるから」

赤い糸の呻き』本文より


西澤保彦のノンシリーズ短編集『赤い糸の呻き』。
今回もいいの揃ってるねぇ。
なかなかえげつないラストをもってきた「墓標の庭」は好みだし、動機がありえんが論理的に解いていくとこうならざるをえないかもしれない「対の住処」もいい。
「お弁当」の中身はどこにいったのかを推理しまくる「お弁当ぐるぐる」も非常に楽しい。

エロもエグいものも、すべては推理して推理して解いていくスタイルがやっぱ西澤テイストだわ。いいものだ。

収録話:
・「お弁当ぐるぐる」
・「墓標の庭」
・「カモはネギと鍋のなか」
・「対の住処」
・「赤い糸の呻き

【ミステリ】探偵が腕貫を外すとき

本→西澤保彦
07 /09 2017
探偵が腕貫を外すとき 腕貫探偵、巡回中
西澤保彦
実業之日本社文庫
探偵が腕貫を外すとき (実業之日本社文庫 に 2-8)
西澤 保彦
実業之日本社 (2016-06-03)
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「四十年前、あなたは不本意にも水無瀬氏の妻を死なせてしまった。懺悔なさりたいというのは、そのことですか」

探偵が腕貫を外すとき 腕貫探偵、巡回中』本文より

腕貫探偵シリーズ5冊目。
今回もいつもの安楽椅子探偵ものばかりというのでもなく、シリーズだからこその変化球もありと楽しめる内容。
特に「秘密」のなぜ自分が殺した女性の夫が罪をかぶって自首したのかというのがとてもいい謎。
ぞっとするわ。
また自分の駐車場に毎度毎度勝手に車が停められていてしかもその現場を押さえられないというのもいいものだし、4月4日に人が死ぬ現場に毎年遭遇してしまう話も好み。
短編ならではの勢いってやっぱり好きなんだよなと再度確認させられた感じか。

また腕貫さんが出てこないとそれはそれで推理に至る手法がまったく違ったりするのも登場人物が増えてきたシリーズだからこその強みだな。

収録話:
・「贖いの顔」
・「秘密
・「セカンド・プラン」
・「どこまでも停められて」
・「いきちがい」

【ミステリ】身代わり

本→西澤保彦
06 /26 2016
身代わり
西澤保彦
幻冬舎文庫
身代わり (幻冬舎文庫)
西澤 保彦
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「きっちり説明してみろ。さあ。さあさあ。見事おれを納得させることができたら、今夜の飲み代、ぜーんぶ、払ってやる」

身代わり』本文より

タックシリーズ。
長編「依存」からは9年空いたらしい。
思えば黒の貴婦人を文庫で発売直後に買って、身がわりをやっとこさ読んで、それでも10年以上ぶりになるという。
そりゃ久しぶり感も出るわけだ。

タイトルの「身代わり」というあからさまに核心をつきながらも予想を覆してくる内容、でもタイトルからは逸れないという完全に読者に挑んできたような挑戦的なタイトル。
飲み会をメインにしながらひたすら会話という会話で推理を重ねていく様はもうなんていうか懐かしい。
これが西澤保彦を読み始めた理由だよ。麦酒の家の殺人しかり。

さてそれ以上にどうあっても動機もトリックもなく、ただ誰の利益にもならないようなことをなぜ殺人者はやらねばなかったのか。
それとも同じ現場を2人以上の殺人者が使ったのか。
荒唐無稽すぎるいくつかの事件をどう「身代わり」というテーマで決着をつけていくのかというのは、特にこのシリーズによくあるといえばあるけれども二転三転、それ以上させていくあたり。
読み応えばっちり。

それよりも「依存」で精神ぶっつぶさせたといっても過言ではないタックと彼を支える存在になったタカチのふたりの名探偵の帰還ぶりににやにやがとまらない。

【ミステリ】笑う怪獣

本→西澤保彦
06 /20 2015
笑う怪獣
西澤保彦
実業之日本社文庫
笑う怪獣 (実業之日本社文庫)
西澤 保彦
実業之日本社 (2014-04-04)
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「彼女なかなか可愛いじゃん?」
「可愛かろうが何だろうが、ああして重力に逆らうような姿勢を取っている以上、異形のものにはちがいあるまい」

笑う怪獣』本文より


怪獣、宇宙人、怪人、幽霊。なんでもこい。
でもミステリな『笑う怪獣』。

新潮文庫版から「ミステリ劇場」の記述が消えた「笑う怪獣」。
表紙がさらに脱力チックになったことで、より楽しく少しエッチにでもラストに向けてガッツリミステリへといざなってくれる。

ナンパが大好きな3人組、でも失敗ばっかりだけど。
その3人がナンパをすると出てくる異形のものたち、でもそれらはあくまで非日常テイストを整えるだけであってミステリの材料となる。

その非日常感と、それになんとなく慣れていっちゃう様がまた面白いんだよなぁ。
もちろんミステリとしても。
特にラストなんて。
あそこだけガチすぎるだろ。
いいもの再読した。

【ミステリ】狂う

本→西澤保彦
05 /17 2015
狂う
西澤保彦
幻冬舎文庫
狂う (幻冬舎文庫)狂う (幻冬舎文庫)
(2013/10/10)
西澤 保彦

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結局おれは自分をコントロールできなくなるかもしれない、そんな予感もした。おれを止められる者は誰もいない。誰も、だ。

狂う』本文より


連続強姦殺人犯と警察の戦いを描いた『狂う』。
単行本の『彼女はもういない』を改題。

タイトルも非常に秀逸だと思う。それぞれ狙っている読者層が異なっているのも単行本と文庫だなと思う。
それに最後の驚愕の動機を知ってからもう一度最初の章を読むと驚きの連続というのも西澤ミステリらしい。

それよりもなによりも、だ。
動機が何かというのを問うミステリがこの『狂う』だが、まさに狂った動機であるがすべての筋が通るのが恐ろしい。
なぜ女を無差別に誘拐し、強姦しビデオに録り、それを被害者の携帯に入っている人にこれまた無差別とも思える人にそのビデオを送り付けるのか。
そして殺人が目的でも強姦目的でもない。
もっと別の理由でこそ、いや、この冷酷さ極まる手法にこそ謎があって、それを解くためにこそこのR18な内容でミステリとして昇華させたのか。

すごく面白い。
ぞっとするほどに恐ろしい動機とすべてが繋がった瞬間のミステリとしての面白さは一級品。

【ミステリ】腕貫探偵

本→西澤保彦
04 /12 2015
腕貫探偵
西澤保彦
カバーイラスト:平沢下戸
実業之日本社文庫
腕貫探偵 (実業之日本社文庫)腕貫探偵 (実業之日本社文庫)
(2011/12/03)
西澤 保彦

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おそるおそる一般苦情係なる窓口に近寄ってみた。
「すみません。ほんとに個人的な悩みでも相談に乗っていただけるんですか?」

腕貫探偵』本文より


副題が文庫で消えてる!
腕貫探偵』を文庫で再読。

腕貫さんシリーズというか櫃洗のシリーズを4冊目まで読んでからの再読は面白いものだった。
腕貫さんの聞き上手探偵ぶりもそうだけれども、ほんの少しの違和感の相談からはじまり、事件がまさに予想外のところから降ってくるような展開がいい。
これが櫃洗という大きなシリーズへとなっていくんだなぁ。
最初に読んでいた時にはシリーズ化すら予想外だった。

収録話
・「腕貫探偵登場」
・「恋よりほかに死するものなし」
・「化かし合い、愛し合い」
・「喪失の扉」
・「すべてひとりで死ぬ女」
・「スクランブル・カンパニィ」
・「明日を覗く窓」

【ミステリ】動機、そして沈黙

本→西澤保彦
02 /22 2015
動機、そして沈黙
西澤保彦
中公文庫
動機、そして沈黙 (中公文庫)動機、そして沈黙 (中公文庫)
(2012/11/22)
西澤 保彦

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「きみの望みを叶えてやろう」
「ぼくの……って、まさか」
「そうさ。あの男を殺してやる――おっと。先走らないように」

動機、そして沈黙』本文より


西澤保彦のノンシリーズ短編集『動機、そして沈黙』。
気持ち悪い。
実に気持ち悪く、セクシャルとフェティシズムを気持ち悪い方向へと昇華させミステリと融合させる系が多かったかな。

これはノンシリーズ、というよりも今回のように幅広い時代の未収録作品を集めることになるわけだ。
どこにも入れようにも入れにくいものばかり。

ああ、でもこの後味の悪さたちもくせになるものばかりなんだよなぁ。


収録話
・「ぼくが彼女にしたこと」
・「迷い込んだ死神」
・「未開封」
・「死に損」
・「九のつく歳」
・「動機、そして沈黙

【ミステリ】必然という名の偶然

本→西澤保彦
08 /17 2014
必然という名の偶然
西澤保彦
実業之日本社文庫
必然という名の偶然 (実業之日本社文庫)必然という名の偶然 (実業之日本社文庫)
(2013/04/05)
西澤 保彦

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もちろん、こんなのはなんの意味もない。単なる偶然に過ぎないわけだけれど。そう、ほんとうに。
ただの偶然。それ以上でも、それ以下でもない。

必然という名の偶然』本文より


腕貫さんはいないけれども、いつもの櫃洗市で起きる事件を収録。
かといって腕貫さんがいないだけというだけでなく、ちゃんと繋がる話もあるという伏線つき。

あらたに生まれた大富豪探偵しかり、彼女の同窓生たち。
彼らのなんでもない会話と思いきや、そうとうに仕込まれた謎と謎解きが楽しい最初と最後の一篇。
それに西澤保彦らしい実に不快な読後感を生む作品もあり、ミステリの楽しさというのを堪能。

やっぱ短編っていいな。

収録話
・「エスケープ・ブライダル」
・「偸盗の家」
・「必然という名の偶然
・「突然、嵐の如く」
・「鍵」
・「エスケープ・リユニオン」

【ミステリ】いつか、ふたりは二匹

本→西澤保彦
05 /24 2014
いつか、ふたりは二匹
西澤保彦
講談社文庫
いつか、ふたりは二匹 (講談社文庫)いつか、ふたりは二匹 (講談社文庫)
(2013/05/15)
西澤 保彦

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どうしても手に入れたい快楽を得るために、では、どうするか。

いつか、ふたりは二匹』本文より


ミステリーランドで出た『いつか、ふたりは二匹』文庫化。
作中のイラストはなし。
なのでどちらかといえば大人向け。
もちろん子供向けでもあるが。

が、しかし。西澤保彦のもたらすトラウマは実に強烈だった。

子供の誘拐と、殺人事件と。
猫に魂を乗り移ることができる男の子が主人公。

この乗り移れるという特殊SFこそが西澤保彦のミステリへの第一歩ともいえるところが西澤保彦らしい(笑
しかも数々の小説でトラウマをもたらしてきたラスト。
もちろんこの子供にも向けてももちろん変わらない。

けれども、この考えさせられる鬱ラストは心に響いてきて前向きにさせられたような気がした。

タイトルも巧いよなぁ。
読んでみてわかる楽しさ、ここにもあった。

【ミステリ】キス

本→西澤保彦
03 /09 2014
キス
西澤保彦
徳間文庫
キス (徳間文庫)キス (徳間文庫)
(2011/05/07)
西澤保彦

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でもあの夏のお蔭でぼくは自分のセクシュアリティに素直になれた。あれで救われたんだ

キス』本文より


森奈津子シリーズ3冊目であり、短編集『キス』。
エロあり、レズあり、ある意味ホモあり。
性の自由さを語りながら、ガチミステリあり、エロを堪能してたらとんでもないラストを突きつけられたり。
再び登場したしろくま宇宙人さんの人間っぽさにニヤニヤしたり。

思えばこのシリーズを読んだからこそ森奈津子の本も読んだりして、そしてまた久しぶりにこのシリーズを読んでみてさらにニヤニヤする。

こんだけ性を楽しんでいる様子を書かれてると読んでるこっちも非常に楽しい。
そしてなによりミステリとして非常に秀逸。
いいじゃない。エロミスいいじゃない。もっとこい(笑

エロとミステリとSFってこんなにも相性がいいとはな……

【ミステリ】モラトリアム・シアター Produced by 腕貫探偵

本→西澤保彦
05 /04 2013
モラトリアム・シアター Produced by 腕貫探偵
西澤保彦
カバーイラスト:平沢下戸
実業之日本社文庫
モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵 (実業之日本社文庫)モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵 (実業之日本社文庫)
(2012/10/05)
西澤 保彦

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「生徒に手を出したら馘首ってやつ?そんなこと、あたりまえよ。たとえ合意のうえでも、相手は未成年なんだから、淫行じゃん。ばかな真似、しちゃだめよ。でもさ、でもさ、相手が卒業しちゃえばさ、話は別だよね」
口角泡を飛ばす勢いである。この情熱はなにならむと訝っていると、母はさらにずんずんと、こちらへにじり寄ってきた。

『モラトリアム・シアター Produced by 腕貫探偵』本文より

母つよし。
母だけじゃない、妹も、いっぱい出てくる女子高の関係者も。
女性がすべからくお強い。

そんな女の園で起こる事件。

セックス的表現とか、実に面白いくらいに直接的でそれがまた痛快。
踊らされてく男たちもまた面白いもの。

女子高生探偵も富豪探偵も、そして腕貫探偵も巻き込み、事件と、そして記憶がまるでとんでいるかのような主人公の「記憶」そのものの謎を追っていく様は面白い。
なぜか。
個性的すぎるキャラクターたちの言動にげらげら笑ってたら完全に事件のことを忘れちゃってたってわけじゃないけど、思わぬ方向からカウンターを喰らうかのごとく騙された。

くそぅ。
腕貫探偵だと思って読み始めたらなんか違うものがはじまってて、ラストになって「そうじゃないか、これは腕貫探偵の話だったんだ」と思いだした時にはすでに時おそし。
ものの見事に騙された。
先入観とキャラクターが実に事件を彩りよくしてくれてた。

ふぅ。
楽しかった。

【ミステリ】腕貫探偵 残業中

本→西澤保彦
09 /23 2012
腕貫探偵 残業中
西澤保彦
カバーイラスト:平沢下戸
実業之日本社文庫
腕貫探偵、残業中 (実業之日本社文庫)腕貫探偵、残業中 (実業之日本社文庫)
(2012/06/05)
西澤 保彦

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「にしても、辛いわな。真相を暴く者が関係者に恨まれるのもありがちとはいえ」
「当然の反応でしょう」最後の最後まで市役所男は冷静だった。「一般的な市民にとって役人の杓子定規ぶりは、彼らの常識に馴染むものではありませんからね」

腕貫探偵 残業中』本文より

腕貫探偵』2冊目。短編集。

ああ。この1話目の内容から腕貫さんが事件に巻き込まれ、安楽椅子探偵じゃなかったぞ、いやいやでもいつもの市役所の男だよなと前巻のような腕貫さんを予想していたら、もう腕貫さんがかわいくてかわいくて。
まさかこんなことになるとは。

事件自体も人から聞いて解決してという、でも時間外での解決ばかり。
だからか、腕貫さんのプライベートがどんどん出てくるという。
しかも今回腕貫さんにある意味惚れちゃうというか惚れてるよなという女の子が出てきたり。

そうそう。
ミステリとしても非常に秀逸なのだが、時間外ということもあり食事シーンがすごくおおい。
またその美味しそうなことといったらない。


今回でこのシリーズに惚れた。
前巻もすごく面白かったが、前巻と違うスタイルも取り入れながらこの腕貫さんと周りの人たちの日常をも描写していく様は、すごく楽しいものでした。

【ミステリ】スナッチ

本→西澤保彦
07 /23 2012
スナッチ
西澤保彦
光文社文庫
スナッチ (光文社文庫 に 16-4)スナッチ (光文社文庫 に 16-4)
(2011/09/13)
西澤保彦

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死ぬのか、ぼくは。まだ二十二歳の若さで。
いや、肉体的にはもう五十三歳……その事実の果てにある絶望とは如何なるものか。

スナッチ』本文より

西澤保彦によるSFミステリっ。
うわ、なんか久しぶりじゃないだろうか。
初期の頃みたい。

気付いたら31年後の自分に取り憑いていた。
しかも主導権は31年後の自分。
31年後の自分との共同生活。

タイムスリップものにありがちな科学など技術の発展に驚くさま。
そして今回の外宇宙からの影響によって同じような症状が起こると90%以上の確率で死ぬという緊迫感。

くぅ。
面白かった。

自分探しの、まさに31年の間になにが自分にどんな影響を与えてどう変化したのかというミステリ。
そして現実で起こるこの31年間に関わる殺人事件。

落としどころも面白いところに落ち着いてびっくりした。
死ぬのか生きるのか。そして生き残るならどうなるのか。
正直西澤作品だからハッピーエンドになってもバッドエンドになっても納得できるだけに緊迫感あったんだよなぁ。

あと近年の著作に多い、「老い」と対峙する薀蓄も面白かった。
健康っていうのを食物から考えていく53歳の自分の思考というのは考えさせられた。

薀蓄もミステリもSFも堪能できた1冊。

【ミステリ】春の魔法のおすそわけ

本→西澤保彦
07 /12 2012
春の魔法のおすそわけ
西澤保彦
中公文庫
春の魔法のおすそわけ (中公文庫)春の魔法のおすそわけ (中公文庫)
(2011/03/23)
西澤 保彦

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「それはだめだよ。だってその頃、あたしたちは生まれたままの姿で、子供のように無邪気にたわむれてる最中の予定なんだもの。このお部屋は、あたしたちのお花畑になっているはずですもの。そこへ他人を、土足でずかずか上げられて?」
「さすが本職。表現力がちがう」
ビールのことで頭がいっぱいのときの小夜子に、皮肉は通じない。

春の魔法のおすそわけ』本文より

西澤保彦のエロとミステリ心あふれる酔っ払い小説。
エロ系西澤保彦といえば森奈津子シリーズ。
酔っ払いといえばタックシリーズだろうか。

そのふたつを掛け合わせた45歳小説家女性独身女性の酔っ払いっぷりと、若い男性をひっかけて久々に行為に及ぼうとしていく様がすごくエロくて面白い。
実にいいコメディ。

かと思えば最後にはミステリ分が炸裂する。
読んでてミステリ小説だってことすら忘れてたよ。

あまりに会話という会話や行為が楽しすぎて。

人間味あふれる女性小説家の小夜子さんもいい味を出してるし、彼女の昔の男に似た男の子の少し客観的に小夜子さんに対応するジェントルな振る舞いもいい。
そもそもの2000万円入ったバッグを拾っちゃったぜというところからスタートする、この2000万円はなんなのかっていうのとこれをどう数日で使い切ろうかと画策する小夜子さんもバカバカしくて人間らしくていいんだよな。
ああ。それがまぁ。あんなラストを迎えるための伏線ですらあったとは。


見事に騙されたというか騙されて実に爽快な気分を味わえたかも。

【ミステリ】腕貫探偵

本→西澤保彦
05 /24 2012
腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿
西澤保彦
表紙イラスト:とり・みき
ジョイノベルス
腕貫探偵 (ジョイ・ノベルス)腕貫探偵 (ジョイ・ノベルス)
(2007/12/14)
西澤 保彦

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市民サーヴィス課臨時出張所
櫃洗のみなさまへ
日頃のご意見、ご要望、なんでもお聞かせください
個人的なお悩みもお気軽にどうぞ
櫃洗市一般苦情係

腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』本文より

腕貫探偵』1冊目。

とこからともなく臨時出張所が出て、そこにいる腕貫をしている市役所職員らしき人の安楽椅子探偵もの。
なんとなく相談を持ちかけてみたら、すんごい秘密に辿りついちゃう。
そんな短編がいくつも収録。

全部依頼主が出張所で相談するという体裁なんだけれども、少しずついろんなバリエーションが増えてきたり。
はやく腕貫さんの出張所を出せよと思えてくる。
個性ないし、淡々と話すし、時間には厳しいし、ほんとお役人なんだけど早くこの人の登場はまだかと思えてくるから不思議だ。

日常の中のちょっとした不思議な出来事相談が、いずれも凄惨であったり、実にとんでもない秘密を抱えていたりと、主に謎がもたらすゾクリと背筋が寒くなる短編が多かった。
なんでまたそんなちょこっとしたことがそんなところへ、と(笑
このギャップがなんともたまらない。

またこの腕貫探偵は依頼主にヒントを与えるような形で、最終的には依頼人が気づくというスタンスを多くとっているところも趣があると思う。
解決編が終わった後のエピローグで真実に気付く、言うなればどんでん返しのようなスタンスがいいんだよなぁ。


収録話:
・「腕貫探偵登場」
・「恋よりほかに死するものなし」
・「化かし合い、愛し合い」
・「喪失の扉」
・「すべてひとりで死ぬ女」
・「スクランブル・カンパニィ」
・「明日を覗く窓」

【ミステリ】聯愁殺

本→西澤保彦
01 /29 2012
聯愁殺
西澤保彦
中公文庫
聯愁殺 (中公文庫)聯愁殺 (中公文庫)
(2010/09/22)
西澤 保彦

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今夜こそあたしの願いはかなえられるのだろうか? 長いあいだ自分を悩ませ、苦しませ続けてきた数々の謎。それは今夜ついに、解き明かされるのだろうか?

聯愁殺』本文より

西澤保彦の『聯愁殺』。

最初の30pで問題編が終わり、残り300pが延々と繰り広げられる推理劇。いわば解決編という仕様。

推理につぐ推理。
二転三転どころじゃない展開も魅力的。

解決編なのに、それでも出てくる証拠や証言の数々。
そこから考えると解決編なのにそれこそが本編。
問題編はただの序章というような構成もまたいいんだよなぁ。

こうやって推理に耽溺するかのごとき構成はなんかタックシリーズの麦酒なんかを思い出した(笑
そう。こんな感じ。
読む側も頭をフル回転させてついていかなきゃいけない感じに酔いしれることができて、非常に面白い。

ミステリが知的なゲームっていうのをしっかり認識させてくれた作品でした。

そしてこの物語が行き着く先も、ここにしか辿りつきようがないなんともいえないラストも脳裏に焼き付いてしまった感じがする…

【ミステリ】夢は枯れ野をかけめぐる

本→西澤保彦
01 /02 2012
夢は枯れ野をかけめぐる
西澤保彦
中公文庫
夢は枯れ野をかけめぐる (中公文庫)夢は枯れ野をかけめぐる (中公文庫)
(2010/12/18)
西澤 保彦

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「――いまだから告白するけど、あたし昔、ユウちゃんのこと好き、だったんだ。うん。けっこう本気で」

夢は枯れ野をかけめぐる』本文より

西澤保彦の『夢は枯れ野をかけめぐる』。

主人公は男性48歳独身リストラに遭い無職。
けれどもお金がないわけではない。

そんな男性が主人公。
なんて物悲しい設定かと思いきや、いやいやそうでもないぞ。
登場人物は触れてはいけない50前の無職という肩書にはひやっとさせられるわけだが。
そこはこの本をあらすじだけで手に取る読者みたい。

彼が出会う様々な謎。
それはやがてひとつの帰結を迎える連作短編集。

50である。
親もそろそろ亡くなる年齢である。
そして自分の老後をしっかりと考えなくてはいけない年齢でもある。

だからこそのこの本が取り上げたミステリとはまた別の、いや、ある意味直結するのかもしれない「老人問題」。
さすがにこの年齢にはなかなか感情移入しづらいわけだけれども、いつか分かる時がくるんだろうなぁ。
それだけひしひしと登場人物たちの焦りや、年齢とは思えないほどの若さを感じる。
結局どんだけ年をとろうともその人はその人なんだ、と。
実は年齢なんてそんなに見た目ほどは年齢の格差なんてないのかもしれない。
でも身体だけは年老いてくる描写を読んでると、やっぱり読んでいてつらいものがあるなぁ。
そういうもんなんだろな…
できなくなってくることが増えてくる。
そしてなにより死は確実に近づいているのが。

そういう老人問題にばかり気を取られるとミステリとして足をすくわれるのもまた面白かったです。

【SF】マリオネット・エンジン

本→西澤保彦
10 /01 2011
マリオネット・エンジン
西澤保彦
表紙イラスト:加藤直之
講談社ノベルス
マリオネット・エンジン (講談社ノベルス)マリオネット・エンジン (講談社ノベルス)
(2009/02/06)
西澤 保彦

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でも……
一旦逆さまになった世界は、そのままなのかしら。
ずっと逆さまになったままなのかしら。
未練がましく地べたにへばりついているものを、ぶら下げたまま?

マリオネット・エンジン』収録『青い奈落』本文より

非ミステリ短編集『マリオネット・エンジン』。
西澤保彦なのにミステリじゃないだと…

これまでにもSF要素を絡めたミステリはいっぱいあったけど、謎解きメインじゃないものってはじめてだったのか。

いやー
だけどもやっぱり西澤保彦らしい後味悪い読後感や、アイデンティティやセクシャルな描写がたくさん。
すごく脳みそが揺らしてくるかのようにひとつひとつの世界観を構築してる。
主人公の存在にしても確固たるものよりも、ひどく曖昧で自分が何者かを問うようなものもいくつかあったし。

非ミステリでも西澤テイストを満足なほどに味わえました。


収録話:
・「シュガー・エンドレス」
・「テイク」
・「家の中」
・「虫とり」
・「青い奈落」
・「マリオネット・エンジン

【ミステリ】収穫祭 下

本→西澤保彦
05 /22 2011
収穫祭
西澤保彦
幻冬舎文庫
収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)
(2010/10/08)
西澤 保彦

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十三年前、自分は偽証した。その事実は認めてもいい。いや、もう隠してはおけない。しかし、ではなぜ偽証したか、その詳細を述べるのは大きな苦痛を強いられそうな予感がした。

収穫祭 下』本文より

13年前の偽証からすべてははじまった。
あの時の偽証が発端として1995年の事件が幕を開ける。
そんな下巻。

1982年の事件当日。
そして繭子の1991年の事件までが上巻。
下巻の大部分を占める1995年。

さらには2007年と1976年の出来事も収録されている。

この長い時間にわたる『収穫祭』。
終わらない惨劇とその真相と発端はなんだったのか。

激しいトラウマを負った1982年の生き残りである当時の3人の中学生たちの心は大きくねじれ、明らかな支障を未来にきたしていく。
どんどん狂っていく人生と終わらない82年の惨劇の追撃。
彼らの心の末路とミステリ部分の真相が重なる部分は実に暗澹としたものだった。
どんより。
まさにどんよりという言葉が適切なくらい。

なんて後味の悪い。
だけれども、この壮大な年代記のような体を成した事件の真相のお味は実に極上でした。

【ミステリ】収穫祭 上

本→西澤保彦
05 /20 2011
収穫祭
西澤保彦
幻冬舎文庫
収穫祭〈上〉 (幻冬舎文庫)収穫祭〈上〉 (幻冬舎文庫)
(2010/10/08)
西澤 保彦

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「やられてる。金谷のお婆ちゃんも。それから……電話も」
「なんでだよ」
それまで、なんとか平静を保とうとしていたカンチも、ついに耐えきれなくなったのだろう、顔をくしゃくしゃに歪め、絶叫した。

収穫祭 上』本文より


西澤保彦の『収穫祭』。
集落のほとんどが惨殺される1982年の事件が語られる第1部と、再度事件を検証する1991年の第2部が収録。

生き残った中学生たちが遭遇する身の毛もよだつ体験。
一体誰がなんのために。
なにもわからぬままひたすらに惨劇が続いていく。

その描写だけでも迫力あるもの。
ただ惨殺されていくわけでもなく、登場人物の混乱ぶりや倒錯していくさまは気になる。
彼らはこの後どうしたのか。ただの少年・少女ではいられなくなるような。

それを象徴するかのように9年後の第2部でも彼らの変化は見られたし、この事件をきっかけに何かが明らかにおかしくなっていっている。

ただの惨殺事件の解決だけが終着点ではないような気がしてきた。
いったいどこに向かうのか予想すらできない。

∀ki(あき)

自由に生きてます。
色々読んだり見たりしてます。

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